総選挙の争点⑵:政策
はじめに
1月23日に高市早苗内閣は衆議院を解散、1月27日に総選挙が公示された。2月8日総選挙が行われる。今回の総選挙で我々国民が判断を求められる点について2回に分けて議論したい。一般的に総選挙の際に有権者が判断を求められるのはこれまでの①政権の実績と②与党をはじめ主張する今後の政策である。
1月31日の記事「総選挙の争点⑴:24年10月総選挙以降の自民党政権の実績」では①自民党政権の実績に加え、総選挙の時期、高市早苗首相と自民・維新連立政権を信任という事柄について議論した。
物価対策、経済政策、安全保障政策
この論稿では、②今回の選挙戦で注目を集めた政策について自民党と中道改革連合に焦点を当てて、検討したい。今回の選挙戦で注目を集めたのは物価対策、経済政策、安全保障政策である。
物価対策:25年度補正予算
インフレが続くなか、物価対策が注目を集めた。自民党はまず高市内閣が2025年10月の発足以降立案してきた政策をアピールする。高市内閣は2025年度補正予算で家計を直接支援するための重点支援地方交付金、電気・ガス代支援、子育て支援など総額約3兆円もの物価対策を盛り込んだ。しかしながら、現在、需給ギャップはほぼ解消しており、こうした資金は結局、需要増につながり、物価を上昇圧力、あるいはインフレを継続させる要因となる。物価対策という目的と政策の予想される効果が矛盾している。
食料品消費税減税:「検討を加速」
今後の政策として最も注目されたのは食料品消費税減税である。1月19日の記者会見で高市早苗首相は食料品にかかる消費税率をゼロにすることは「私自身の悲願」であったと語る。その上で、2年間の時限で税率をゼロとすることを「今後設置される「国民会議」において、財源やスケジュールの在り方など、実現に向けた検討を加速」することを約束する。自民党が21日に発表した公約にも「今後「国民会議」において、財源やスケジュールの在り方など、実現に向けた検討を加速します。」という文言が盛り込まれる。
盛んな消費減税論
2019年10月の消費税10%引き上げ以降、多くの政党が消費減税を訴えるようになった。例えば、2021年10月の総選挙の際には立憲民主党、日本維新の会、国民民主が期間を限定して消費税を5%にすることを公約している。昨年の参議院議員選挙では立憲民主が1年限定、維新は2年限定で食料品にかかる消費税率を0%にすることを打ち出し、国民民主は実質賃金が持続的にプラスになるまで消費税率を5%に引き下げることを公約した。
首相が消費減税を打ち出した経緯
ただ、今回、食料品の消費税率が注目を集めるようになったのは中道改革連合の結党と密接に関わっている。1月14日に朝日新聞が立憲民主と公明が合同、新党を結党する方向であることを報道する。1月16日に立憲民主党の野田佳彦代表と公明党の斉藤鉄夫代表が記者会見を開き、新党結成を発表、野田代表は「消費税減税は入れていきたい」と発言する(『時事通信』26年1月16日)。1月22日に結党大会を開き、衆議院議員総選挙の公約を発表、26年秋から恒久的に食料品の消費税率をゼロとすることを盛り込む。
首相はこれを強く意識し、自民党公約に食料品消費税減税を盛り込むことを小林鷹之政務調査会長に求めた(『読売新聞』26年1月22日)。しかし、自民党内には減税に慎重派もおり、妥協の結果、「検討を加速」することを公約とすることで決着する。
踏み込む首相
「検討を加速」するということは検討の結果、財源などが見つからないことを理由に食料品消費税をゼロにしないことも考えられる。しかしながら、首相はその後、食料品消費税減税に関してさらに踏み込む。1月24日のニコニコ主催の討論会では実質的に2年間の時限的減税に踏み込み、25日のフジテレビでの討論会では26年度の実現を目指す考えを示す。26日の日本記者クラブでの討論会では「私としては出来るだけ早期に引き下げたい。希望は(2026)年度内を目指していきたい」と発言、「夏までに結論が出たら」秋の臨時国会に法案の提出が可能になるという考えを示している(『朝日新聞』デジタル、26年1月26日)。
「ホクホク」発言の意味
もっとも首相は1月27日から2月5日までの街頭演説では消費税減税について一度も触れていない(『読売新聞』26年2月6日)。主要メディアから消費税減税について厳しく批判されたこと、首相の発言以降長期金利が上昇する一方、円安が進んだことが理由として考えられる。もっとも1月31日の首相の演説は消費税減税が首相の頭の中にあることを強く示唆する。首相は1月31日、遊説中に外国為替資金特別会計に触れ、円安の結果、「これの運用、今ホクホク状態です」と発言する(『日本経済新聞』デジタル版26年1月31日)。多くの有権者にとって馴染みのない外国為替資金特別会計になぜ首相は触れたのか。この特別会計の資産は米国債などで運用され、運用益の一部は税外収入として一般会計の歳入の一部になっている。26年度予算案では3.1兆円が歳入として組み込まれている。首相は消費減税の財源に国債ではなく、租税特別措置や補助金の見直し、さらには税外収入を充てる考えを示してきた。首相は税外収入の一部として外国為替特別会計の運用益に注目している可能性が高い。
不足する財源
食料品の消費税をゼロ%にする場合、5兆円の財源が必要になると考えられている。外為特会の運用益の一部はすでに歳入に当てられている。新たに5兆円もの財源を租税特別措置や補助金の見直し、さらには税外収入から捻出することは難しい。なお、中道改革連合は消費税減税の財源として、政府系ファンドの創設や基金の活用という考えを示している。ただ、この考えは現実的ではない。まず、ファンドの運用は不安定で安定財源にはならない。さらに、基金はこれまで政府が作ってきた基金の資金を充てる方針であるが、これも永続的な財源とすることはできない。
以上を踏まえると、食料品消費税ゼロを掲げる各党の主張は、いずれも安定的かつ持続可能な財源設計を欠いており、問題が多い。高市首相が消費減税を打ち出した後の、長金利の上昇と円安の進行を踏まえると、選挙後、与野党が本格的に消費減税を目指す場合には現実的な財源を確保する必要がある。
経済政策:「責任ある積極財政」
首相が訴える経済政策の柱は「責任ある積極財政」である。それと合わせて首相が必ず触れるのがこれまでは「行き過ぎた緊縮志向」であったことである。首相はこれを「大きく転換」させることを強調し、政府が率先して投資を行うことで、民間の投資も誘発し、日本経済を成長させようという考えを示す。
「危機管理投資」「成長投資」
首相は「危機管理投資」「成長投資」を掲げて投資を行うことを訴えてきた。より具体的には経済安全保障やエネルギー安全保障に関わる分野、技術力を拡大できると考えられる分野を選んで成長策を立案するということである。すでに首相は日本成長戦略本部と日本成長戦略会議を発足させ、17の分野を「戦略分野」として選び議論を開始している。
これまでも積極財政
だが、これは近年の各内閣の財政政策に関する正しい認識ではない。予算の拡大は安倍内閣のもと2018年度には始まっている。2018年度予算は17年度の99.1兆円から101.3兆円に19年度予算はさらに104.6兆円に増える。その後、コロナ危機が始まると安倍内閣や菅内閣は巨額の補正予算を編成、20年度予算は一気に175.6兆円まで拡大する。危機が収束しても、大きな補正予算を策定することが慣行となり、財政支出はコロナ危機以前よりはるかに大きなものとなっている。2024年度予算は126.5兆円で17年度に比べ25兆円も増えている。こうした財政政策をどうして「行き過ぎた緊縮」と言えるのが疑問である。
斬新さのアピール
またこうした政府が率先して財政資金を経済成長のために利用するのは岸田内閣の時に始まっている。岸田内閣は特に経済安全保障を重視し、半導体産業の育成や日本の研究開発力の向上を打ち出している。したがって、高市首相は政策を大きく転換させているのではなく、特に岸田内閣の政策を継承・発展させている。高市内閣の経済政策は、路線転換というよりも、既存政策の延長線上にあるものと位置づけるのが適切である。
もっとも首相が新たに発足した内閣の新規性を打ち出すのはごく自然なことである。高市首相も自分の内閣の斬新さをアピールするのに熱心であるということである。
経済成長を目指すために中道改革連合が掲げる政策は総論としては自民党の政策と似ている。ただ、選挙期間中に中道改革連合がこうした政策を強く訴えたという印象は薄い。
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