高市早苗政権1ヶ月:「首相支配」型政権運営の行方

11月21日で、高市早苗政権は発足から1か月を迎えた。この1ヶ月の政治過程からは、高市首相が「首相支配」型の政権運営を志向していることが浮かび上がってくる。本稿では、政権成立の過程と政権の人事、政策全般の方向性を踏まえつつ、とりわけ高市首相が就任直後に打ち出した経済対策と2025年度補正予算の意味と首相のアキレス腱を議論する。
竹中 治堅 2025.12.05
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はじめに

11月21日で、高市早苗政権は発足から1か月を迎えた。参院選敗北と総裁選を経て就任した高市早苗首相は憲政史上初めての女性首相である。この1ヶ月の政治過程からは、高市首相が「首相支配」型の政権運営を志向していることが浮かび上がってくる。本稿では、政権成立の過程と政権の人事、政策全般の方向性を踏まえつつ、とりわけ高市首相が就任直後に打ち出した経済対策と2025年度補正予算の意味と今後のリスクを検討する。

首相官邸ホームページ

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参院選敗北から「初の女性総裁」誕生へ

高市早苗内閣は、2025年7月の参議院議員選挙での与党敗北、その後の10月の総裁選を経て成立した。参院選で与党の獲得議席は47にとどまり、石破首相が「必達」とした50議席を割り込んだ。前年11月の総選挙に続く国政選挙二連敗により、党内が強い不満が一気に噴出した。それでも石破首相は続投への意欲を示したが、8月8日の両院議員総会で、有村治子総会長が逢沢一郎総裁に対し党則に基づく「臨時総裁選」実施の要求確認を行うよう申し入れたことで、総裁交代への流れは決定的となる。9月7日、石破首相は退陣を表明せざるをえなくなった。

自民党は一般党員の参加を認める総裁選を実施することを決めたため、総裁選が実際に開かれるのは1ヶ月ほど先の10月4日になる。9月22日の告示で小林鷹之、茂木敏充、林芳正、高市早苗、小泉進次郎の5人が立候補。1回目投票では、高市氏が議員票64・党員票119で1位、小泉氏が議員票80・党員票84で2位となり、両者の決選投票に持ち込まれた。

決選投票で高市氏は議員票149・県連票36を獲得し、自民党結党以来初めての女性総裁に選出される。麻生派の支持を確保したことが、勝利を収める上で決定的な意味を持った。

麻生派重用と連立組み替え:政権基盤の特徴

10月7日、高市新総裁は党執行部人事を行う。副総裁に麻生太郎、幹事長に鈴木俊一、総務会長に有村治子、政調会長に小林鷹之、選対委員長に古屋圭司を起用し、麻生派から3名を要職に送り込んだ。党運営を麻生派に大きく依拠する態勢であることは明白である。

注目すべきは、有村氏が参議院議員でありながら三役の一角に起用された点である。参院議員が三役入りするのは自民党結党以来初めてである。

一方で、新政権の発足には時間を要した。公明党は連立継続の条件として、政治資金不記載問題の全容解明や企業・団体献金の規正強化を求めたが、自民党はこれに応じず、公明党は10月10日に連立離脱を決めた。その後、自民党は日本維新の会との交渉を進め、10月20日に連立で合意。社会保障改革、高齢者の定義見直し、給付付き税額控除、衆院定数1割削減などで政策的一致をみた。

こうした過程を経て、10月21日に高市氏が首相に指名され、高市内閣が発足した。憲政史上初めて女性が首相に就いたことになる。

「首相支配」型の政権運営と官邸人事

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